目次
【術前の治療方針検討】
☆リード留置部位の選択
①心房の留置部位
心耳→留置が容易でリードの位置移動が起こりにくい.
心房中隔→留置困難でリードの位置移動が起こりやすい. 低位中隔は最後まで電位が残ると言われている.
②心室の留置部位
心尖部→留置が容易でリードの位置移動が起こりにくい.
右室中隔→留置困難でリードの位置移動が起こりやすい.
※中隔に留置と思っていたら自由壁に留置しているケースがある.
☆リードの選択
スクリュー:置きたい場所に留置でき, リードの位置移動が起こりにくい. 心臓穿孔のリスクが高く, リード抜去しやすい.
タインド:留置できる場所が限られる(心房は心耳, 心室は心尖部のみ). リードの位置移動が起こりやすい. 心臓穿孔のリスクは少ないが, リード抜去はしにくい.
心房→タインド(心房は薄く, 心臓穿孔のリスクを回避)
心尖部→スクリュー(心室は厚い組織であり, リード固定を優先)
※開心術後の場合は心膜・胸膜の癒着で心臓穿孔のリスクが低く, 右心耳留置も困難であるため, 心房リードにスクリューインリードが使用される.
☆留置部位の選択
日本人は右利きが多いため, 左側に留置するのが基本.
左側植え込みが推奨されるICDを将来入れる可能性が高ければ右側留置が望ましい.
【植え込み手技】
①血管走行の確認
留置予定側の上腕を駆血し, 造影を行い血管走行を確認する.
造影剤3mlを先に入れて, その後に生食10mlで後押しする.
※胸膜外穿刺部位について
第一肋骨:穿刺部位が鎖骨に近すぎると肋鎖靭帯を貫通しリード損傷の原因となる. ただし, 胸郭に近いため, 血管の位置は術中に移動しにくい.
第二肋骨:近くを走行する胸肩峰動脈の誤穿刺に注意が必用.
②皮膚切開
皮膚トラブルを避けるため, 鎖骨と上腕関節から一定の距離をあける.
鎖骨の1-2横指下側, 上腕関節部の2-3横指内側
3横指程度切開する.
穿刺する静脈に沿う切開は広範囲に静脈アプローチできるようになる.
切開は尖刃で1回でできるだけ切るようにする.
③ポケットの作成
基本は大胸筋膜下に作成する.
※皮下の場合は脂肪層内に作製するため, 皮膚からの距離が短く, 皮膚壊死や感染を起こしやすい. それと比較し, 大胸筋膜下の場合は, 脂肪層と大胸筋層の間にある大胸筋膜に作製するため, 剥離が容易であり, 感染にも強い.
※大胸筋層だと出血が多くなる.

剥離は電気メスの凝固もしくは用手的に行う.
開創器で創部を開いて行う. 電気メスで少しずつ広げていき, 大胸筋膜が見えるところまで剥離.
ポケット作成の際はセカンドに筋鈎で広げてもらいながら, 剥離していく. その際に局所麻酔を追加すると良い.
④胸膜外穿刺
第一肋骨内側と外側の間を狙ってさしていく.
外側の頂点よりも静脈が頭側を走行→走行はおそらく深いため, 少し立て気味に
外側の頂点よりも静脈が足側を走行→走行はおそらく浅いため, 少し寝かせ気味に
2本穿刺し, 外側を右室リード, 内側を右房リード用に使用する.
穿刺部の間隔は0.5cm以上とる.
⑤シース留置
シース留置の際には太いシースをいきなり刺してしまうと肺などにさしていた場合に気胸が悪化する可能性が高いため, 最初は4Frシースで穿刺. その後, シース交換を行うのが良い.
蛇行が強い場合は深呼吸してもらうと通過することが多い.
第一肋骨アプローチ時に強い抵抗を感じた場合は肋鎖靭帯貫通の可能性があり再穿刺を考慮する.
⑥右室リード留置
RVリードをもらって, スクリューチェックを行う. 問題なければ, 術者の代わりに2ndがリードをシースから出るくらいのところまで入るくらいまで挿入(スタイレットはシースに挿入した後に少し抜くこと=先端の穿通性を弱めるため).
・パターンA(肺動脈にあげて右室に落とす)
U字型スタイレットを使って三尖弁を通過し, その後ストレート変えて心尖部付近にもっていく.
右房が拡大しているとU字からストレートにかえるときに右房にはね落ちることが多い.
・パターンB(直接心尖部に)
ピッグテール状のスタイレットを使用して行う. スタイレットを途中まで入れると小さな円を描くようにリードが自然に右室に跳ね上がる. スタイレットをさらに奥に入れるとリード先端が上向き, 引くと下向きになる.
☆スクリューイン時の注意点
LAOにして確認しておく.
心臓穿孔をさけるためリード先端は中隔側に向けること
強く押してスクリューインすると心臓穿孔を起こすため, 軽くあたるぐらいで行う.
まず, データチェック(閾値・波高値・抵抗値)を行い, 問題なければスクリューする.
スクリューするときは透視を拡大して先端確認しながら行うこと.
スクリューは通常12回程度回すことが多いが, 余分に2回程度まわす.
※適時軽くたたいてトルクを解除すること.
留置できたら, たわみをつける. 第2肋骨アプローチではより牽引されるため, 大きくたわみをつける.
⑦右房リード留置
RAリードをもらい, スクリュータイプであれば事前チェックを行う. 問題なければ, 術者の代わりに2ndがリードをシースから出るくらいのところまで入るくらいまで挿入する.
U字のスタイレットを用いる.
右房上部からそのまま押すとリードがストレートからUに代わりながら右心耳に入ることが多い.
右心耳に入ると心耳の拍動でワイパー運動をする.
右房上部は下部と異なり内腔が狭く, リードを自由に操作できない. 一方で右房下部は内腔が広く, リード先端を右心耳に向けてリードを引き上げると自然に入る.
リードを素早く出し入れ(バイブレーション)するとリードが奥に押し込まれて固定が良くなる.
U字になるようにしっかりたわませる(押しすぎると下に牽引されて逆に抜けてしまう).
位置が良さそうならデータチェック(閾値・波高値・抵抗値)を行う.
タインド→リード位置移動予防のため極力ねじれを起こさないようにする.
スクリュー→右心耳上部は薄く, 右心耳下部はリードが壁に垂直に当たるため避けたい. 低位中隔が良い.
⑧スリーブ固定
術野の組織は浮腫を起こしているが, 術後数日で改善するため, リード刺入部に隙間ができて遅発性の皮下血腫になる可能性がある(特に支持組織が脆弱な場合).
→リード周囲の大胸筋に4-0 PROLENEを用いてたばこ縫合を行い, 隙間予防を図る. 強く結びすぎるとリード損傷が危惧されるため, 注意が必要.
スリーブは大胸筋にかけた糸を一旦結んでからスリーブの結紮糸溝に結んでリードを固定する.
固定する際は垂れ下がるように固定してしまうとシステムが抜けてくることがあるため, スリーブの外側が頭側に持ち上がるように固定する方がよい.
⑨創部止血
お湯で創部を洗い, 出血している部位を電気メスで凝固する.
表皮については出血していても止血のため凝固はしないこと(創傷治癒遅延の原因に).
⑩本体接続
リードが血液汚染を起こしていると接続不良の原因となるため, 濡れガーゼで拭ったのちに乾きガーゼで再度拭う.
※乾いていないと接続不良の原因となる.
接続前にトルクレンチをセプタムに挿入して空気を通しておく. リードを挿入して目視で確認した後にトルクレンチを緩めて固定する.
⑪デバイスのポケット内挿入と固定
電池交換時に邪魔にならないようにリードをジェネレータの背部にしてポケット内に挿入する.
挿入したジェネレータを大胸筋に固定する.
固定するときにスリーブ頭側の大胸筋に糸をかけると立位時にジェネレータがスリーブを巻き込むように牽引されてリードが抜けてしまうため, スリーブ尾側の適度に離れた位置に固定の糸をかける.

⑫閉創
ポイントは死腔を減らす, デバイスをしっかり閉じ込める, 血流を確保して創傷治癒を促す, 結び目(ノット)が皮膚に出ないようにすることである.
連続縫合→死腔が少なく, デバイスを閉じ込める力は強いが, 阻血になりやすい.
単結紮縫合→1針ごとにノットを作製し結紮間が連続していないため, 閉じる力は連続縫合より弱いが, 血流を確保しやすい.
運針は組織の片側を下→上, 対側を上→下にかけて, ノットを組織の下側に作製して皮膚に出てこないように注意する.
当院では4-0Polysorbを用いて連続縫合で2層縫合をしている.
1層目の創縁にノットを作製したら連続縫合し, 反対の創縁まできたら運針を上の層にずらし2層目を縫い, 1・2層目の糸でノットを作製する.
1層目→皮下(脂肪)組織をデバイスが目視できなくなるよう密に縫合する.
2層目→皮膚組織の真皮を寄せるように縫合する.
その後, V-Locというクロージャーデバイスを用いて表皮を寄せるように縫合する(3層目の役割).
最後にステリストリップ(創傷閉鎖用テープ)を貼付する.
⑬保護
デバイス手術では有意な皮下血腫を起こすことは少なく, 強く圧迫する必要はない. 阻血にならないように注意しながら保護する.
ハイドロゲル創傷被覆材(カラヤヘッシブ)を創部を覆うように貼付し, その上にフィルムドレッシング製剤(テガダーム)を貼付する.
ガーゼ20枚を使用して創部をテープで圧迫・固定する.

※テープ固定の仕方
縦に1本, それより内側に向くように1本, 最初の1本より外側に向くように1本, 横に1本, 最後に縦にもう1本
【当院植え込み後の流れ】
POD2:ガーゼ圧迫解除
POD6:創部保護フィルム剥離、デバイスチェック
【参考文献】
●草野研吾(2018)『不整脈デバイス治療バイブル-適応・治療・管理まですべてマスター-』南江堂
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