HFpEFの診断は意外と難しい
HFpEF(heart failure with preserved ejection fraction)は、単に「LVEFが50%以上の心不全」というだけでは診断できません。一方でどこからをHFpEFとして、MRAやSGLT2阻害薬を導入するかどうかについても議論がある。
特に外来では、
- 労作時息切れはある
- LVEFは正常
- BNP/NT-proBNPもそれほど高くない
- 安静時心エコーでも明らかな異常がない
という患者も少なくない。
そこでHFpEFの診断をサポートするために、
HFpEF-ABA
H₂FPEF score
HFA-PEFF algorithm
などが提唱されています。
ポイントは、この3つを単純に横並びにするのではなく、
HFpEF-ABA → H₂FPEF / HFA-PEFF → 必要なら負荷検査
という流れで理解することです。2026年のACC Expert Consensusでも、これら3つの診断ツールがHFpEF評価に利用可能とされています。
STEP 1:HFpEF-ABA ― まずHFpEFを疑う
HFpEF-ABAは2024年に報告された、非常にシンプルなHFpEFスクリーニングモデルです。
必要なのは、たった3項目です。
A:Age(年齢)
B:BMI
A:Atrial fibrillation(心房細動)
この3項目だけでHFpEFの可能性を推定するので、疑う際に有効なスコア項目です。
HFpEF-ABAは414例のderivation cohortから作成され、国際多施設736例でもvalidationされました。HFpEFとnon-cardiac dyspneaの識別能はderivation cohortでAUC 0.839、validation cohortでAUC 0.813でした。
HFpEF-ABAは連続的な予測確率を算出するモデルで、確立されたrule-in/rule-out thresholdはまだありません。
STEP 2:H₂FPEF ― 心エコーまで含めてHFpEFの確率を評価する
HFpEFが疑わしい場合、次に使いやすいのがH₂FPEF scoreです。
2018年にReddyらによって提唱され、HFpEFとnon-cardiac dyspneaを鑑別するために作られました。重要なのは、HFpEFの判定に侵襲的運動負荷血行動態評価を用いて開発・検証されたことです。
| 項目 | 基準 | 点数 |
|---|---|---|
| H₂:Heavy | BMI >30 kg/m² | 2 |
| H:Hypertensive | 降圧薬 ≥2剤 | 1 |
| F:AF | 発作性または持続性AF | 3 |
| P:Pulmonary hypertension | PASP >35 mmHg | 1 |
| E:Elder | 年齢 >60歳 | 1 |
| F:Filling pressure | E/e′ >9 | 1 |
合計 0~9点です。
0–1点:HFpEFの可能性が低い
2–5点:Intermediate
6–9点:HFpEFの可能性が高い
特に2~5点の中間群では、必要に応じて運動負荷心エコーや侵襲的血行動態評価を検討します。
H₂FPEFの特徴は、日常診療で得られる臨床情報と通常の心エコーだけで比較的簡単に計算できることです。
一方、AFだけで3点、BMI >30 kg/m²で2点となるため、AFや肥満を伴う患者ではスコアが高くなりやすいことも理解しておく必要があります。
STEP 3:HFA-PEFF ― HFpEFをより詳細に評価する
より詳細にHFpEFを評価する方法が、ESC Heart Failure Associationが提唱したHFA-PEFF algorithmです。
名前は、
P = Pre-test assessment
→ E = Echocardiography & natriuretic peptide
→ F₁ = Functional testing
→ F₂ = Final etiology
という診断の流れから来ています。
| Domain | 評価項目 | Major:2点 | Minor:1点 |
|---|---|---|---|
| Functional | e′ | septal e′ <7 cm/s または lateral e′ <10 cm/s | ― |
| Average E/e′ | ≥15 | 9–14 | |
| TR velocity / PASP | TR >2.8 m/s(PASP >35 mmHg) | ― | |
| GLS | ― | <16% | |
| Morphological | LAVI | >34 mL/m² | 29–34 mL/m² |
| LVMI + RWT | LVMI ≥149 g/m²(男性)または ≥122 g/m²(女性)かつ RWT >0.42 | 下記のいずれか: LVMI ≥115 g/m²(男性) LVMI ≥95 g/m²(女性) RWT >0.42 LV wall thickness ≥12 mm |
|
| Biomarker:洞調律 | NT-proBNP | >220 pg/mL | 125–220 pg/mL |
| BNP | >80 pg/mL | 35–80 pg/mL | |
| Biomarker:AF | NT-proBNP | >660 pg/mL | 375–660 pg/mL |
| BNP | >240 pg/mL | 105–240 pg/mL |
(Eur Heart J. 2019; 40: 3297-3317. Figure3より抜粋)
上記3領域を評価し、それぞれMajor criterionなら2点、Minorなら1点で、各domain最大2点、総計6点です。同じdomain内で異常項目が複数あっても加算し続けるわけではない点が重要です。
判定はかなりシンプルです。
0–1点 → HFpEF unlikely
2–4点 → intermediate → 追加検査
5–6点 → HFpEFと診断可能
となります。
3つのスコアをどう使い分ける?
臨床では、次のように考えると分かりやすいでしょう。
息切れ・浮腫などからHFpEFを疑う
↓
HFpEF-ABA(まずHFpEFの可能性を簡単にスクリーニング)
↓
H₂FPEF(日常診療でHFpEFの確率を評価)
↓
HFA-PEFF(より生理学的・構造的にHFpEFを評価)
参考文献
- Nat Med. 2024; 30: 2258-2264.
- Eur Heart J. 2019; 40: 3297-3317.








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